日本各地の正月行事のなかで、一風変わった行事が行われているのをご存知でしょうか。
正月といえば初詣。
初詣といえば人でにぎわう拝殿が写し出されますが、そのなかで、一本の材木を前に神官の装束に身を包んだ人物が、見慣れない道具を使ってなにやら真剣な表情をしています。
現在では、ごく少数の神社と一部の民間会社がこの儀式を継承していますが、これこそ、建築業界(大工職人)の文化を伝える、「釿始(ちょうなはじめ)」です。
普通、建築関係の儀式といえば、棟上げ式が馴染み深いものでしょう。
また、少し詳しい人であれば地鎮祭などを思い浮かべるに違いありません。
今は地鎮祭が起工式をかねることが多いのですが、かつては土工事の始まりにすぎず、木工技術が主流であった当時では、「釿始」こそが起工式でした。
ゆえに、知る人ぞ知る、珍しい建築儀式の一つなのです。
この儀式の名称になっている「釿(ちょうな)」は、手斧ともいい、最近ではあまり見かけませんが、材木の表面を削るための工具です。古い民家の大黒柱やの表面が少しゴツゴツとしているのは、「釿」で削った跡で「釿目(ちょうなめ)」と呼ばれています。
現在私たちが言う大工(だいく)のことを、中世以前は大工(こだくみ)とか番匠(ばんしょう)と呼びました。
そもそも大工(おおいたくみ)は、古代に工匠一般の指導的地位に相当する官職として定められた呼称で、中世前半までは、鍛冶大工(かじおおいたくみ)というように職人の指導者を指していました。
中世半ばから実力者、指導者をあらわす呼称として棟梁(とうりょう)が使われるようになり、「だいく」という言葉は木工職人にのみ残されたのです。
起工式としての「釿始(ちょうなはじめ)」では、工匠の神様を祭り、式後の祝宴は、神と人、人と人との交流の場でした。
建設にかかわる人々が一堂に会し、共同意識を高め、工事に取り組む心を一つにする場であったわけです。
近世に入り、「釿始」は年中行事化して、職人たちの正月の仕事始めとして行われるようになりました。
職人たちは技術の伝承と向上を願い、工事の無事を祈りました。それが現代まで延々と受け継がれてきたのです。
<つづく>
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